Tシャツの丸胴と横割り(脇縫い)について

今回はTシャツの「丸胴」と「横割り(脇縫い)」に関して考察してみたいと思います。

「丸胴」仕様と「横割り」仕様とは

見分け方はとてもシンプルで、Tシャツの脇の部分が縫製されていれば「横割り」仕様、縫製されていなければ「丸胴」仕様です。

写真左:「横割り」仕様、写真右:「丸胴」仕様

「横割り」仕様では、前身頃と後身頃の2枚の生地を脇部分でロック始末することで生地をつなぎ合わせています。
一方、「丸胴」仕様では、丸胴生地をそのまま開かずに胴体部分として使用するため脇部分に縫製を行う必要はありません。
前回、「Tシャツの「ねじれ」の事」で触れた通り、大抵の天竺生地(ニット生地)は、筒状に編み上げられていきます。

出典:第1回 魔法のかかった編み立て機?|ほぼ日刊イトイ新聞

先にも記載した通り、「丸胴」仕様のTシャツの場合は、この筒状の形をそのまま生かして胴体部分にしてしまったものです。
脇部分の縫製が不要になるため、効率が良く、さらに着心地も良くなると言われているため、メーカー側にとっても消費者側にとってもメリットのある仕様だと思います。
しかし、世の中に流通しているTシャツを見てみると、拘りのTシャツとして販売される高価格帯の商品の中にも「横割り」仕様を採用しているブランドは、多く一概に「丸胴」仕様が良いというわけではなさそうです。
そこで、「丸胴」仕様と「横割り」仕様について、考察をしていきたいと思います。

丸胴、横割りのメリット・デメリット

そこで、一般的に言われる「丸胴」仕様と「横割り」仕様のメリットやデメリットを整理してみます。

  メリット デメリット
丸胴仕様 1.脇部分に縫い目がない為、着心地が良い。
2.脇部分に縫い目がない為、縫製の手間が省ける。
3.脇部分に縫製がないため、脇部分を含んだプリントができる。
4.脇部分に縫製がないため、斜行が発生してもわかりづらい。
1.縫製時に身幅の調整ができないため、サイズ別に編み機を調整する必要がある。
※独自サイズの生地を仕入れる為にはコスト高になる。
2.斜行が発生しやすい。
3.脇部分がシェイプする形は作れない。
横割り仕様 1.試作品製作の段階で身幅の細かな調整が行いやすい。
※独自パターンのTシャツを追求できる。
2.丸胴に比べると斜行は発生しづらいと言われている。
※脇の縫製部分でロック始末が施されるため捻じれの戻ろうとする力が一旦途切れるこその力が抑えられるものと考えられる。
3.脇部分がシェイプする形が作れる。
1.脇部分に縫い目があるため、肌ざわりという面で劣る可能性がある。
2.脇部分の縫製を行う必要がある。
3.脇の縫製部分にかかるようなプリントはできない。(プリントしても凹凸があるため、きれいにプリントできない。)
4.斜行が発生すると脇の縫い目が前に出てくるため、目立つ。
5.脇部分をシェイプしたパターンを採用している場合、極端な斜行が発生すると着心地が悪くなる。

この表を一見すると、脇にシェイプを入れる必要がなく、また「斜行」もそれが味になると考えれば「丸胴」仕様のほうがよさそうに見えます。
私も個人的には、ある程度の「斜行」は味だと考えているので「丸胴」仕様のそれを嫌だと感じたことは一度もありませんし、実際、ビンテージTシャツを復刻しているような拘りの有名ブランドなどでは「丸胴」仕様が採用されるケースが多いように感じます。

希望の「丸胴」生地の入手はハードルが高い

ブランドとしてモノづくりをしていると、常に選択を迫られます。
「丸胴」仕様か「横割り」仕様か。
吊り編み天竺という生地を選択した後に迫られた選択です。
これまで集めてきた手持ちの拘りTシャツには、「丸胴」仕様のものや「横割り」仕様のものが混ざっていましたので、どちらかが一方的に優れているということはないのだと考えました。
そこで、「丸胴」仕様、「横割り」仕様について、調べ始めたのですが、調査の過程で、Tシャツ生地となる多くの天竺生地は丸胴の形で編み上げられているということに着目しました。
丸胴で編まれているのであれば、わざわざ開いて(Cut)また縫製(Sew)するのではなく、そのまま「丸胴」仕様で使うほうがシンプルで理にかなっていると考えました。
そこで、「丸胴」仕様の採用を検討し始めたのですが、すぐに気づいたのは、自分達の求める身幅の天竺生地を入手することの難しさでした。
多くの拘りTシャツを試着し研究を繰り返すことで得た、拘りに拘りぬいた自分達だけの究極のオリジナルパターン。
しかし、それが仇となり、拘れば拘るほど、自分達の求める身幅の丸胴生地(開く前の筒状の生地)が流通している可能性は低くなっていきました。
流通品は、一般的に汎用性を求められるため、大きめに作られることが多いからです。(大は小を兼ねるともいいますし。。。)
しかも、Bitter Catsが使う生地は、ただでさえ流通量が少ない希少な吊り編み天竺でしたから、流通品に自分達のパターンの身幅を求めるのは絶望的な状況でした。
そこで、特注サイズの生地を編みこんでもらうことも検討しました。
しかし、たとえ作ってもらったとしても、実際に試作品を着てみたらイメージと違ったとなると、また生地を編んでもらうところから作り直してもらい(生地を作り直すためには吊り編み機の筒のサイズを専用に小さくしてもらう必要があります。)、それから試作品を作り試着してという工程を何度も繰り返すことになります。
この作業には、膨大な時間と労力と費用が費やされることが容易に想像できるました。
資本が潤沢な大手メーカーであればいざ知らず、私達のような駆け出しの小さなブランドにはとても高いハードルでした。
自分達のオリジナルのパターンをあきらめ、一般に流通している汎用的なS、M、Lサイズの生地を使うことも検討しましたが、多くの時間と労力とお金をかけた末に築き上げたオリジナルパターンをあきらめることはできませんでした。

メリット・デメリット表の再考

「丸胴」仕様のハードルの高さを目の当たりにした私達は、もう一度、「丸胴」と「横割り」のメリット・デメリットを精査することにしました。
上表にまとめたメリット・デメリットは、「丸胴」仕様と「横割り」仕様の相対比較ですから、一方のメリットがもう一方のデメリットになっています。
このことを念頭に入れながらもう一度、内容を精査していきたいと思います。

1.脇の縫い目が着心地に与える影響について(「丸胴」仕様の「メリット1」と「横割り」仕様の「デメリット1」)

「丸胴」仕様は、脇に縫い目がないので縫い目が肌に触れることはないため、「丸胴」仕様のメリットに関しては、多くの人が異論はないと思います。
では、「横割り」仕様のTシャツの脇の縫い目が着心地が悪いというのはどうでしょうか。
例えば、ご自身のお手持ちのTシャツを見てください。
おそらく脇縫いのものも何枚かお持ちだと思います。
そのTシャツを着た際に、脇の縫製が気になったことはありますか。
余程、タイトなTシャツでもない限り、気にされたことがある人は少ないのではないでしょうか。(洗濯タグや襟タグが気になる方は少なからずいるとは思います。)
つまりこういったメリット・デメリットの相対的比較では、実際の着心地には影響がなくても、論理的に比較すると、縫い目がない分丸胴のほうが着心地が良いだろうということになるのです。
そもそも、「縫い目があったら、着心地が悪くなる。」ということにを突き詰めていくと袖や襟、肩の部分は「丸胴」仕様でも縫製する必要があるので、それもなくさないといけないということになり、では縫製ではなく「接着」でとか、「3Dプリンター」でといった話に発展していってしまいます。
※実際にスポーツの世界では縫製部分の空気抵抗や水の抵抗をなくすため、接着にしているものもありますが、Tシャツはそこまでシビアなものではなく、ゆったりと気軽に着て頂けるものだと考えています。
そう考えると、「横割り」仕様の脇部分の縫製が「デメリット」になるというのは、現実的にはあまり気にする必要がないのではないかと思い始めました。

2.脇の縫製について(「丸胴」仕様の「メリット2」と「横割り」仕様の「デメリット2」)

「横割り」仕様に比べて、「丸胴」仕様は脇部分の縫製は不要であることから、「丸胴」仕様のほうが有利です。

3.脇部分のプリントについて(「丸胴」仕様の「メリット3」と「横割り」仕様の「デメリット3」)

脇部分にもかかるようなデザインを考える場合には、「丸胴」仕様がベストです。

4.斜行について(「丸胴」仕様の「メリット4」と「横割り」仕様の「デメリット4」)

コットン100%の単糸を使って編み上げららた丸編みの天竺生地は、多かれ少なかれ必ず斜行が発生します。
「丸胴」仕様は脇部分に縫製がないため、斜行が発生しても目立ちにくいというメリットがあります。
一方、「横割り」仕様の場合は、脇に縫い目があるため、これが前に出てくると斜行が分かりやすいのは事実です。
しかし、斜行も程度もので、ある程度の斜行は「風合い」として受け入れられる傾向があるため、一概にデメリットととらえるべきではないと考えています。
Bitter Cats ポケット吊り編みTシャツ(BCTS-S001)は、吊り編み天竺生地を使っています。
以前にも記載しましたように、吊り編み天竺は編み上げる際に糸に余計なテンションをかけないため、「斜行」が発生しづらいという特徴があります。

再考結果

このように一つ一つ整理していくとデメリットと言われていることが、現実的には、デメリットではないことが発生します。
Bitter Cats 吊り編みポケットTシャツ(BCTS-S001)に限定して考えると、「1」、「3」、「4」は「横割り」仕様でもデメリットにならないように感じました。
「2」についても、手間が増える分、多少のコストは上がりますが、オリジナルの丸胴生地を作ることを考えればむしろメリットと捉えてもよさそうです。

Bitter Cats 吊り編みポケットTシャツは「横割り」仕様

上記のような検討と研究を重ねた結果、Bitter Cats 吊り編みポケットTシャツ(BCTS-S001)では、「横割り」仕様を採用することにいたしました。
前身頃と後身頃をつなぎ合わせる脇部分の縫製には、2本針4本糸を使ったオーバーロック始末を施しています。
縫い目を平らにする扁平縫いに属する「フラットシーマー」なども検討しましたが、表面の見た目と考えているほど縫い目が着心地に作用する影響は少ないと判断しこの始末を採用しました。
この件は、「Tシャツの縫製」にて詳しく記載しておりますので、併せてご参照ください。

細部にまで拘りが詰まったBitter Cats渾身の一着「Bitter Cats 吊り編みポケットTシャツ(BCTS-S001)」は、こちらからご購入できます。

 

 

 

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