Tシャツはとてもシンプルな構造です。
それだけに限られた要素の一つ一つがTシャツ全体の風合いに大きく影響してきます。
以前、 Tシャツを構成する糸 で記載した通り、素材や、形状(カッティング)、縫製、プリントデザインです。
今回は、前回少し触れた「Bitter Cats 吊り編みポケットTシャツ(BCTS-S001)」の衿素材について記載したいと思います。

衿素材はフライス or 共布
「Bitter Cats 吊り編みポケットTシャツ(BCTS-S001)」を製作するにあたり、プロトタイプの製作を積み重ねてきましたが、その検証の中で、衿素材について「フライス」にするか「共布」にするかを検討しています。
検討にあたり、まず「フライス」、「共布」のメリット・デメリットを整理しました。
フライス、共布のメリット、デメリット
世のなかに流通しているTシャツの衿素材を見ると、圧倒的に「フライス」が多いことを考えるとフライス一択のように考えがちですが、「共布」の製品も少なからずあることを考えるとやはり、適材適所なんだろうと考えられます。
今回、私達が作る「Bitter Cats 吊り編みポケットTシャツ(BCTS-S001)」には、どちらがベストなのか、それぞれのメリット、デメリットを整理します。
メリット | デメリット | |
フライス | ・天竺にくらべ伸縮性が高く、ヨコ方向に良く伸びる(着脱しやすい) ・波打ちが発生しにくい(伸びた感じがしない) |
・共布と比べると少し厚みがある(厚ぼったく見える) ・他の部位と色味に違いがでることがある ・共布に比べるとわずかに伸びやすい? |
共布 | ・フライスに比べると厚みが少ない(スマートに見える) ・ほかの部位と同じ素材なので色味も全く一緒 ・フライスに比べるとわずかに伸びにくい? |
・フライスに比べると伸縮性は乏しい(着脱しづらい) ・波打ちが発生しやすい(ヨレヨレに見える) |
※「伸びやすさに関して、上表で「?」にしている理由」
伸びやすさということに関して、具体的に双方の比較をしている情報が見つからず、自分達が作ったプロトタイプの実験結果をもとに記載しているためです。
以下の数値は、プロトタイプを使って、洗濯回数と天巾(衿の空き具合)の長さ(いずれも未洗濯の状態の天巾との比較値です)の変化を計測した結果です。
※Tシャツは洗濯後、最も一般的なハンガー干しをしています。
1回目 | 2回目 | 3回目 | 4回目 | 5回目 | 6回目 | 7回目 | |
フライス | +0.5cm | +1.5cm | +1.9cm | 0cm | +2.3cm | +2.5cm | +2.5cm |
共布 | +1.4cm | +1.4cm | +1.2cm | +1.0cm | +1.8cm | +2.0cm | +2.0cm |
生地は伸び縮みするため正確な計測は難しいのですが、上記の内容を見ると、フライスのほうが伸びやすい傾向にあるように見えます。
但し、4回目の結果を見ると、この時だけ、Tシャツを逆さ干ししたのですが、逆さ干しすると、フライスは伸びがもとに戻りました。
フライスの特性として「伸縮しやすい」傾向がある為、縮んで元に戻ったものと推測されます。
これらを考慮すると、フライスは伸びやすいけど縮むという特性もあるので、一概に伸びっぱなしというわけではなさそうです。
では、なぜ「Bitter Cats 吊り編みポケットTシャツ(BCTS-S001)」はフライスを選択したのか
一番のキメ手になったのは、衿の波打ちの状態でした。
以下は、「フライス」と「共布」それぞれの衿の拡大写真です。


一目両全だと思いますが、「共布」(下の写真)は衿の端が波打っており、生地が伸びているわけではないにも関わらず、伸びたゴムのように見えます。
「共布」のメリットは、見た目のスマートさが大きな売りなのですが、これではその見た目が台無しなのです。
一方、「フライス」のデメリットである、「厚み」や「色味」は、写真を見てもらうとわかるように「共布」と比較してもほとんど気になりません。
伸びやすさという点では確かに不利ですが、プロトタイプでの検証結果からもわかるとおり、縮みやすいという特性もあるので、逆さ干しするなどすることである程度の復元はされることが期待できます。
これらの理由から、この「Bitter Cats 吊り編みポケットTシャツ(BCTS-S001)」に関しては、「フライス」が最適と判断し、こちらを採用することにいたしました。
今後はどうするか?
「吊り編み ポケットTシャツ(BCTS-S001)」では、今回「フライス」を採用することになりましたが、今後もずっとそうかと聞かれるとそれは断言できないです。
当然、別の型番のTシャツを作ることになった際も、「フライス」を使うかどうかはわかりません。
それは、作りたいTシャツの目的に合った素材、技術を一つずつ検証を積み重ねて確認し、納得のいく商品を作っていきたいと考えているからです。